大正琴づくりの匠
全ての形に秘められた理由
大正琴はよく見るとメーカーにより様々な違いがあり、その違いは、各メーカーの大正琴に対する考え方の違いでもあります。
大正琴アンサンブルを生み出した琴伝流をメーカーとして支える日本バイオリン研究所。創業者北林源一郎の音楽に対する畏敬の念と、「もっと人々の身近に音楽を」という思いが、「大正琴でほかの楽器に負けない音楽表現がしたい」という思いに繋がり、レベルの高い音楽表現のための数々のこだわりと工夫を生みました。
ここでは、メーカーにより形状が異なる箇所を中心に、琴伝流のこだわりと工夫をご紹介します。
ボタンの形
フチが盛り上がった丸ボタン。人によっては更に滑り止めのカバーをかぶせて使う。
フチが盛り上がった丸ボタン
人によっては更に滑り止めのカバーをかぶせて使う
大正琴のボタンの形状は大きく分けて、丸、楕円、四角の3種類があります。発明当初から昭和40年頃までは丸いボタンの大正琴がほとんどで、琴伝流もこの丸型を採用しています。
楕円のボタンや四角いボタンは、ボタンの面積を広くすることで、指が滑り落ちるのを防ぐ狙いがあります。また、楕円より四角い方がピアノやオルガンに近い感覚で演奏できるメリットもあります。
ではなぜ琴伝流は丸いボタンを採用しているのでしょうか。
ヒントは琴伝流の丸いボタンある周囲の1.5㎜ほどの盛り上がった縁取りにあります。この盛り上がりによりボタンを指で押さえたときに自然にボタンの中心へ向かって指が滑り込み、常にボタンの中心を押すことができます。
ボタンの中心を押すと、ボタンの下のキー板に真上から力が加わり、キー板が真下に押し下げられ、正しい位置で弦を押さえた綺麗な音が出ます。さらに、常にボタンの中心から次のボタンに指を動かせるので距離感がつかみやすく、ボタンの押し損じも減ります。
ボタンが大きい方が、初心者や速い曲を演奏する際は有利と思いがちですが、ボタン同士の接する面積が増えるので押し間違いが増えるだけでなく、ボタンの中心以外を押すと弦を斜めに押すことになり、綺麗な音が出にくくなります。
こうしたことから琴伝流では丸いボタンを採用しています。
ボタンの間隔
指の動きを正確に現に伝えるのに最も有利な直線のキー板
指の動きを正確に現に伝えるのに最も有利な直線のキー板
最近はボタンが等間隔の大正琴も見られるようになり、ピアノなどを習ったことのある方にとっては大正琴がより身近な楽器になったのではないでしょうか。
そもそも大正琴のボタンはどうして等間隔でないのでしょうか。それは、音階が弦の長さで決まり、音階1つ分の間隔が低い方ほど広くなるためです。このため、等間隔ボタンの大正琴であっても、弦を押さえる位置はボタンの真下ではなく、ボタンの下のキー板を曲げて遠くを押さえています。
前の項目で説明したように、キー板を指の一部のように操り良い音を出すためには、指とキー板の弦を押さえる位置が直線上にあるのが理想です。その位置が離れれば離れるほど、斜めに力が加わることになり、キー板がたわんで感触が微妙に異なってしまうほか、指を微妙に動かしてビブラートのように音に変化をつけるなどの味のある演奏がしにくくなります。
こうしたことから琴伝流では等間隔ボタンの大正琴を採用していません。
集音の仕方
琴伝流が音響メーカーと開発した大正琴用マイクは、他社の大正琴にも採用されています
琴伝流が音響メーカーと開発した大正琴用マイクは、他社の大正琴にも採用されています。
大正琴はマイク内蔵のものとそうでないものがあります。演奏会では、マイク内蔵の場合はコードを差し込んで集音します。マイク内蔵でない場合は、スタンドマイクを立てて集音します。
大正琴はバイオリンに比べて小さく四角い形をしているうえ、弦をピックで弾いて音を出す擦弦楽器のため、弦を弓でこすって音を出す擦弦楽器のバイオリンほど大きな音が出ません。
そこで、内蔵マイクまたはスタンドマイクで集音することになりますが、この2つの方法にはそれぞれ一長一短があります。
大正琴のボタンは離したときにバネの力で天板側に戻るため、演奏中に絶えずキー板が天板に当たる音がします。内蔵マイクでは弦の振動を磁気で拾うため、弦以外の音は入りませんが、スタンドマイクではこの音も入ってしまい演奏の妨げとなります。
また、低音域のテナー大正琴やベース大正琴は生音が小さいため、スタンドマイクでは十分な音量を得ることができません。
一方、内蔵マイクにもデメリットはあります。それは、内蔵マイクで磁気信号を拾うのに一番良い位置は共鳴穴の位置であるため、マイクを取り付けると共鳴穴の一部がふさがれてしまいます。
大正琴を一人で弾いていた時代は、演奏者に良い音が聴こえることが最も大切でしたが、大正琴アンサンブルを聴いていただく時代の今は、内蔵マイクの方が適しているとの考えから、琴伝流では内蔵マイクを採用しています。
手のせプレート
繊細な音楽表現に欠かせない、琴伝流が考案の手のせプレート
繊細な音楽表現に欠かせない、琴伝流が考案の手のせプレート
琴伝流の大正琴には下駒の右に手のせプレートが付いています。
この手のせプレートを初めて採用したのも琴伝流です。
ギターのようにピックを持つ右手の振り幅が大きい楽器は、こうしたプレートは必要ありませんが、4本の弦の幅が1㎝ほどの大正琴では、ピックを持つ右手の起点を作った方がより細やかなピック使いが可能になります。
テールピース(弦掛け)
大正琴の弦を引っかけるテールピースにも琴伝流のこだわりがあります。
一般的なメーカーのテールピースは、横一列に弦を引っかけるタイプです。
弦の幅に合わせて数字も刻印した琴伝流のテールピース
弦の幅に合わせて数字も刻印した琴伝流のテールピース
横一列に並んだ一般的な大正琴のテールピース
横一列に並んだ一般的な大正琴のテールピース

このタイプ方法だとフック部分の幅が広がり、弦を張ると下駒の右側が広がってしまいます。この状態で演奏すると、下駒の左側をピックが往復するため、下駒の上で弦が引っ張られている方向に滑りやすくなります。こうなると綺麗なトレモロや弦を使い分けて繊細に演奏することはできません。
下駒の左右が直線の琴伝流の大正琴
下駒の左右が直線の琴伝流の大正琴
下駒の右の弦が広がっている他者の大正琴
下駒の右の弦が広がっている他者の大正琴

もう一つ、琴伝流のテールピースには小さな工夫が隠されています。
琴伝流のテールピースをよく見ると、どの弦をどこに引っかければよいか分かるよう、弦の番号が刻印されています。これも大正琴愛好者の立場に立った琴伝流の小さな心遣いです。