No | 名称 | はたらき |
① | 糸巻き棒/糸巻き穴 | 弦を巻きつける棒で、弦の先端を通す糸巻き穴があいています。 |
② | 糸巻き | 右上の第1弦糸巻きから左回りに、第2弦、3弦、4弦、5弦糸巻きと呼びます。糸巻きを回すと糸巻き棒が連動し、弦をしめたりゆるめたりします。 |
③ | 天板 | 音階ボタンとその動きにかかわる大正琴の最も重要な部分で、響鳴胴と裏側3箇所の金具で取り付けてあります。 |
④ | ボリュームコントロール※ | 付属の接続コードでアンプ(別売り)などに接続した際、アンプから出る音量を調節することができます。(最小1〜最大10) |
⑤ | 磁気マイク※ | 弦の振動を電気信号に変えるところです。 |
⑥ | ピックカード | ビックがあたって響鳴胴に傷が付くのを防ぎます。薄い保護シートをはがしてご使用ください。 |
⑦ | ハンドプレート | 演奏の際右手首を乗せる場所です。 |
⑧ | テールピース | 弦の輪になっている方を引っかけるフックが付いています。向こう側から順に第1弦、2弦、3弦、4弦、そして第5弦用です。 |
⑨ | 下駒 | 右側にある弦を乗せる場所です。調整ができるように響鳴胴には固定されていません。 |
⑩ | 弦 | 向こう側から順に、第1弦、2弦、3弦、4弦、5弦(補助弦)と呼びます。 |
⑪ | マイク出力ジャック※ | マイクからの信号が出力され、付属の接続コードでアンプ(別売り)などと接続します。 |
⑫ | 響鳴穴 | 響鳴胴で大きくなった音を放出する穴です。 |
⑬ | トーンコントロール※ | 付属の接続コードでアンプ(別売り)などに接続した際、アンプから出る音質を調整することができます。(軟らかい音色1〜硬い音色10) |
⑭ | 音階ボタン | 弾く音の音程(音の高さ)を決めるボタンです。数字と点と白・黒(♯)により識別します。 |
⑮ | 響鳴胴 | 弦の振動を響鳴させて、音を大きくする大正琴の本体です。 |
⑯ | 上駒 | 左側にある弦を乗せる場所です。響鳴胴に固定されていて、開放弦の音程を決めています。 |
大正琴の各部の名称
※マイク内蔵大正琴のみです。また機種により取り付け位置、形状が異なります。
全ての形に秘められた理由
大正琴はよく見るとメーカーにより様々な違いがあり、その違いは、各メーカーの大正琴に対する考え方の違いでもあります。大正琴アンサンブルを生み出した琴伝流をメーカーとして支える日本バイオリン研究所。創業者北林源一郎の音楽に対する畏敬の念と、「もっと人々の身近に音楽を」という思いが、「大正琴でほかの楽器に負けない音楽表現がしたい」という思いに繋がり、レベルの高い音楽表現のための数々のこだわりと工夫を生みました。
ここでは、メーカーにより形状が異なる箇所を中心に、琴伝流のこだわりと工夫をご紹介します。
ボタンの形
大正琴のボタンの形状は大きく分けて、丸、楕円、四角の3種類があります。発明当初から昭和40年頃までは丸いボタンの大正琴がほとんどで、琴伝流もこの丸型を採用しています。楕円のボタンや四角いボタンは、ボタンの面積を広くすることで、指が滑り落ちるのを防ぐ狙いがあります。また、楕円より四角い方がピアノやオルガンに近い感覚で演奏できるメリットもあります。
ではなぜ琴伝流は丸いボタンを採用しているのでしょうか。ヒントは琴伝流の丸いボタンある周囲の1.5㎜ほどの盛り上がった縁取りにあります。この盛り上がりによりボタンを指で押さえたときに自然にボタンの中心へ向かって指が滑り込み、常にボタンの中心を押すことができます。ボタンの中心を押すと、ボタンの下のキー板に真上から力が加わり、キー板が真下に押し下げられ、正しい位置で弦を押さえた綺麗な音が出ます。さらに、常にボタンの中心から次のボタンに指を動かせるので距離感がつかみやすく、ボタンの押し損じも減ります。
ボタンが大きい方が、初心者や速い曲を演奏する際は有利と思いがちですが、ボタン同士の接する面積が増えるので押し間違いが増えるだけでなく、ボタンの中心以外を押すと弦を斜めに押すことになり、綺麗な音が出にくくなります。こうしたことから琴伝流では丸いボタンを採用しています。
ボタンの間隔
最近はボタンが等間隔の大正琴も見られるようになり、ピアノなどを習ったことのある方にとっては大正琴がより身近な楽器になったのではないでしょうか。
そもそも大正琴のボタンはどうして等間隔でないのでしょうか。それは、音階が弦の長さで決まり、音階1つ分の間隔が低い方ほど広くなるためです。このため、等間隔ボタンの大正琴であっても、弦を押さえる位置はボタンの真下ではなく、ボタンの下のキー板を曲げて遠くを押さえています。
前の項目で説明したように、キー板を指の一部のように操り良い音を出すためには、指とキー板の弦を押さえる位置が直線上にあるのが理想です。その位置が離れれば離れるほど、斜めに力が加わることになり、キー板がたわんで感触が微妙に異なってしまうほか、指を微妙に動かしてビブラートのように音に変化をつけるなどの味のある演奏がしにくくなります。こうしたことから琴伝流では等間隔ボタンの大正琴を採用していません。
集音の仕方
弦をピックで弾いて音を出す擦弦楽器の大正琴は、弦を弓でこすって音を出す擦弦楽器のバイオリンほど大きな音が出ないため、演奏会では内蔵マイクまたはスタンドマイクで集音することになります。マイク内蔵の大正琴はコードを差し込んで集音し、マイク内蔵でない大正琴はスタンドマイクを立てて集音しますが、この2つの方法には一長一短があります。
内蔵マイクでは弦の振動を磁気で拾うため、弦以外の音は入りませんが、演奏中にボタンを離す際に天板とキーボタンがバネの力でぶつかるコツコツという音も一緒に入ってしまうことがスタンドマイクの最大のデメリットです。また、低音域のテナー大正琴やベース大正琴は生音が小さいため、スタンドマイクでは十分な音量を得ることができません。
一方、内蔵マイクのデメリットは、磁気信号を拾うのに一番良い位置はピックが行き来する共鳴穴の位置であるため、マイクを取り付けると共鳴穴の一部がふさがれてしまいます。大正琴を一人で弾いていた時代は、演奏者に良い音が聴こえることが最も大切でしたが、大正琴アンサンブルを聴いていただく時代の今は、内蔵マイクの方が適しているとの考えから、琴伝流では内蔵マイクを採用しています。琴伝流が音響メーカーと開発した大正琴用マイクは、他社の大正琴にも採用されています。
手のせプレート
琴伝流の大正琴には下駒の右に手のせプレートが付いています。この手のせプレートを初めて採用したのも琴伝流です。
ギターのようにピックを持つ右手の振り幅が大きい楽器は、こうしたプレートは必要ありませんが、4本の弦の幅が1㎝ほどの大正琴では、ピックを持つ右手の起点を作った方がより細やかなピック使いが可能になります。
テールピース(弦掛け)
大正琴の弦を引っかけるテールピースにも琴伝流のこだわりがあります。一般的なメーカーのテールピースは、横一列に弦を引っかけるタイプです。
このタイプ方法だとフック部分の幅が広がり、弦を張ると下駒の右側が広がってしまいます。この状態で演奏すると、下駒の左側をピックが往復するため、下駒の上で弦が引っ張られている方向に滑りやすくなります。こうなると綺麗なトレモロや弦を使い分けて繊細に演奏することはできません。
もう一つ、琴伝流のテールピースには小さな工夫が隠されています。琴伝流のテールピースをよく見ると、どの弦をどこに引っかければよいか分かるよう、弦の番号が刻印されています。これも大正琴愛好者の立場に立った琴伝流の小さな心遣いです。
大正琴に時代を超えた名器は生まれるか
バイオリンには100年以上前に作られ、今なお素晴らしい音色を奏でる名器と呼ばれる機種がありますが、大正琴にはこうした機種は存在するのでしょうか。 答えは残念ながら「いいえ」です。メーカーによっては「一生もの」という表現で高額な大正琴を販売している例を見かけますが、大正琴の構造を理解していないか、無責任なセールストークといわざるをえません。
琴伝流の大正琴を製造している日本バイオリン研究所は、その名の通りバイオリンメーカーとしてスタートしました。名器の生まれるバイオリン製造を経て大正琴メーカーになった当社だからこそ、大正琴の弱点にも目をそらさず、それを補う工夫で大正琴の魅力を高めてきたのです。
それでは、大正琴にバイオリンのような時代を超えた名器が生まれない理由を、大正琴とバイオリンの構造を比較して説明します。
正面と横から見た様子
ポイント《1》ネック(フレット)と共鳴胴の位置関係
大正琴とバイオリンの音作りに決定的な違いは、音を響かせる共鳴胴と音階を作るネック(フレット)の位置関係です。
バイオリンは、音を響かせる共鳴胴の僅かな面積に、堅い楓材などで作られたネックが取り付けられ、更に共鳴胴の表板裏板の両方にアーチ状の膨らみをつけることにより、弦の張力に負けない強度と響きのある音の両立を図っています。
一方、大正琴は共鳴胴とネック(フレット)部分が完全に一体化されています。響きを決める共鳴胴により多くのものが付いているということは、音色の点において大正琴がバイオリンより不利であることを表し、更に直線のフレットが共鳴胴に貼りついているので、弦の張力の方向にバイオリンのような共鳴胴の膨らみを付けることができず、歪みにも弱くなります。
ポイント《2》弦の押さえ方
大正琴は、弦の張力や歪みに弱いこと以外に、数十年使い続けられないもう一つ大きな理由に、弦を押さえる仕組みの違いがあります。
バイオリンは大正琴と同じ金属の弦を使っていますが、指で弦を押さえるため弦や指版の摩耗が最小限に抑えられます。
一方、大正琴は弦をキー板(ボタンの下に付いている金属の板)で押さえる上、正確な音階を作るために指板にフレットがあるため、弦は金属で挟み込まれることとなります。このためフレットやキー板が徐々に摩耗し、ボタンを押さえたときに全ての弦を均一に押さえられなくなってしまいます。
こうしてすり減ったキー板は、天板と一緒に交換することが可能ですが、指板は共鳴胴に貼りついているため交換ができず、何十年も使い続けることが難しくなります。